彼女について知ることのすべて

井土紀州監督最新作『彼女について知ることのすべて』を試写で見た。
三浦誠巳による笹峯愛との情事の回想がベースになっている。おそらくキーになるのは、笹峯が昔の男、朴と再会して寝てしまうくだり。朴は笹峯を追わず、もう捨てられたと諦めていそうなのに、笹峯は戻ってきてしまう。笹峯は何を思ったか。「そのとき彼女が寝たと知らなかった私は、事態を楽観視していたかもしれません」と三浦は振り返る。朴の部屋に戻る笹峯の顔、仕草は狂気染みたものとして演出されていて、その前後の彼女の行動と結びつかず不可解だ。朴が最初に三浦を脅したとき告げる、笹峯の裏切りははたして本当か、嘘か。
ふたりの間に生じたねじれは、回想を終えた後まで続くが、三浦のナレーションと笹峯の行動の間にはズレが生じている。2つのシーンによってブレる笹峯の像は、三浦の主観で語られることでますます信用ならない。そもそも三浦は女心がまるで読めず、笹峯に限らず、彼の周囲にいる女性は、みんな彼の視野の外で行動しているのだった。