坂本君は見た目だけが真面目(監督:大工原正樹)

学園モノは「なんて狭い関係で生きているんだろう」という感じが、学園生活はそんなものだとわかるからこそ見ていて苦手で、堀禎一監督作は彼ら(また彼らに自らを重ねがちな観客)の捉われているイメージやフレームを意識させるから面白いが、『告白』や『桐島〜』にはそのフレームはない。
大工原正樹監督『坂本君は見た目だけが真面目』はそのフレームを強く感じさせる映画だった。『楽隊のうさぎ』と異なり中学生に見えない彼らの狭い関係の輪の存在を画でも見せるが、なぜだか唐突で変なものを見た違和感しか覚えなかった。でもそこが面白い。そこにさらに踏み込みがたい学生と教師の関係には思えない二人の関係が交わる。コピーにもある「愛」は終盤のキスシーンになるスレスレの切り返しに感じたが、大工原正樹監督の作品に登場する、もはやどちらが離れたいのか近づきたいのかわからないまま、ある距離を置いて続く「愛憎」の関係だろう。これはもう学校に限った話ではない。特に踊場での学生たちの引きの画と、教師にはまるで見えない夏服姿のヒロインの切り返しの美しさ。彼女は『風俗の穴場』のヒロインが見せる、風俗嬢でも何でもない一人の若い女性がある風に吹かれている時の美しさを思い出す。これは彼女たちが職業よりも愛憎の中から抜け出した瞬間かもしれないが、あのとき彼女は解放されているというのでもない。我を忘れているわけでもない。しかしいったい何を考えていたのか想像するのは虚しいくらい、あのシーンのヒロインは素晴らしかった。そこは彼女の主観かもしれないが、不思議な風通しのよさがある。
そして『坂本君』でも大工原監督の作品同様、過去が亡霊のように存在する。今回は彼のロボットが録音したヒロインの声だ。彼女はその声がロボットが死んだように消された時にひどく悔しがる。過去の自分が消されたことに? しかしロボットは死なず、その後も映画は彼や彼女の過去が消えようとせず、存在し続けるのを見せて終わる。
また坂本君の家が異様。覗いてるのか覗かれているかわからない夜の窓も大工原監督らしい。母親役の宮田亜紀はルンバに踊らされているような、現実にいそうな存在よりも微妙にロボットと化している。『ダークシステム』につづくロボット映画。または『ET』かもしれないカエル映画。
3月15日(土)-3月29日(土) オーディトリウム渋谷での上映
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